2006年01月03日

2枚のタイルが物語るもの・・・

戦前のタイル








ここに、2枚の古いタイルがあります。今から80年ほど前に建てられた
地元の旧銀行の2階の外壁を覆っていたタイルです。

実家に戻ったとき、以前聞かされた
大正時代の旧銀行が取り壊されるという話を確認するために向かったとき、
産廃として山積みに放置されていた瓦礫の中から頂いたものです。



旧銀行













その旧銀行は、ルネッサンス様式のしゃれた煉瓦造の洋館で、多少改造を
受けていたものの、比較的オリジナルの姿を保っており、建物のレベルの高さと
市内でも数少ない戦前の洋館だけに文化財的価値もあり、
市のほうでも買取の話が持ち上がっていた矢先でした。
私も気に入っていた建物だったんですが、結局取り壊されることになり
非常に残念のきわみでした。せめて、最後の姿を見ようと向かったわけですが、
壁や基礎を見ると、戦前の建物というのは、本当に丁寧にしっかり作っていますね。
壁の中の煉瓦もいいものを使っているのか、きれいなものでした。
そして、壁を覆っていたタイルなんですが、今のタイルと違い、
本当に分厚い。1センチ強の厚さがあります。この時代、薄いタイルも
作ってますから、あえて分厚く造り、目地をしっかり深くさせることにより
煉瓦建築のような重厚さを出そうとしていたんでしょう。
しかも、元々煉瓦建築でありながら、デザインのためにさらに表面にタイルを貼り付けているわけです。
また、一階部分はモルタルで石造のように表現し、
戦前の銀行建築特有の重厚さを出していました。

昔の建物は、どんな小規模のものでもどんな用途でもデザインを重視しました。
いまなら、無駄な装飾と省かれるんでしょうが、しかし、時にはその「無駄」が
人の心にゆとりを与え、豊かにすることだってあるわけです。

そして、その建物のデザインや建物の構造は設計士や職人の腕の見せ所であり
誇りでもあったわけです。自分の手がけた作品がずっと残るわけですから・・・。
戦前の建築の質の高さは、阪神大震災で戦前のビルが軽微な損傷程度で
多くが倒壊することなく無事だったということからもわかることだと思います。
(ただし、煉瓦建築は倒壊したものが多かったです。それは煉瓦建築は
元々地震に弱いという欠点があるので、質の問題とは別です。
鉄骨の入った煉瓦建築は倒壊を免れています。)


経済性重視、合理性重視を求めるあまり、マンション建設で大きな問題の
発覚した昨年、果たして後世の人に素晴らしいと唸らせ、ずっと残したいと思わせる
建物を今後作ることが出来るでしょうか・・・。








80年この街を見守り続けた旧銀行は、去年その生涯を閉じました。
私はまだ旧銀行の洋館が「生きていた」ころの写真と、2階の外壁を
誇らしげに飾っていたタイルを形見に、かつての素晴らしい姿を
伝えて行こうと思います。

besan2005 at 13:48│Comments(2)TrackBack(0) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 金融機関 

トラックバックURL

この記事へのコメント

1. Posted by まこと@コタツの中から愛を込めて   2006年01月04日 08:31
同感でございますな。「無駄」って大切なんだよね。物作りに関わってるから身に染みてるよ。コスト面から機能を追求すると、行き着くところは全部同じで味気無いもん。そんなの「文化的」じゃないよね。俺の親父は若い頃に建設関係の仕事してたんだけど(体壊して辞めたんだわ)時々、車で一緒に移動してると「これは、俺らが関わったビルなんだ!」って嬉しそうに話すんだよね。そういうのって、何か羨ましいって思うよ。
2. Posted by べーさん   2006年01月04日 13:40
>>まこと氏

同じ意見をお持ちでうれしいです!
その辺中々分かってくれる人いなくて・・・
昭和戦後は建物も機能主義・合理主義を
追求していったから、トーフみたいな真四角の
味気ない建物ばかりになったんだけど、
最近の建築は、結構デザイン等の趣向を凝らしてますよね。これは、これまで追求した機能主義への
反発でもあるんですよ。それが「ポストモダン」
という様式なんですよね。だから、ごく最近の建物は私は好きですよ。だって、見所があるから、
見ていて楽しいですもん。

お父さんのような技術者は、形を残せますもんね。
自分が手がけた建物とかには愛着あるでしょう。
まこと氏もモノは違えど作品を生み続けてますし、
やはり、自分が死んでもその証しを残せるのって
素晴らしいことだと思いますよ。

コメントする

名前
 
  絵文字
 
 
訪問者数
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

最新のお客様のご意見